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第024-2話 眼福の一時

Author: 百舌巌
last update Last Updated: 2025-01-22 11:01:53

 手袋をした手でドアをそっと開け、素早く室内に潜り込んだ。

 人目に付くのを避ける為に扉は極力静かに閉める。開閉の音や振動は案外響くものだ。

 もちろん、目は室内を睨んだままだ。

(どうも~お邪魔しま~す)

 ドアの前でしゃがんで室内の様子を伺った。もし、誰かが居るようならすぐさま脱出する為である。

 身体を動かさずに首だけをゆっくりと動かし、人の気配を探っていたディミトリは立ち上がった。

(誰も居ないんですよね~)

 おもむろに室内に足を踏み入れる。

 空き巣狙いであれば、室内の物色にかかるところだが今回は違う。

 部屋の主に用事がある。なので、部屋の中を調べていく事にする。

(さあ、どういう人物が住んでいるのかな?)

 誰も居ないことは確認済みだが、静かに部屋の中を移動していく。

 ベッドに机にちゃぶ台・タンスと質素な暮らし向きらしかった。余計な装飾品が無い。

 トイレや台所も清潔に保たれているようである。

(ええ、真面目な人なの?)

 室内の本棚には医療関係の本が多かった。それも家庭用ではなく医者の使う専門書の類だ。

 中には外国語で書かれた背表紙も見受けられる。

(睨んだ通りに医者の卵という事か……)

 次にタンスの引き出しを下から開けていく。上から開けると上段の引き出しが邪魔になるからだ。

 因みにコレは窃盗犯が行うやり方だ。短時間で家探しが出来るのだ。

 ベテランになると五分もあれば一部屋分の家探しが完了するらしい。

(むむむっ! コレは……)

 とある引き出しを開けた時にディミトリの手が止まった。

 そして、コレまで見せたことが無い様な険しい顔付きになっていった。

「うーむ……」

 その引き出しには色とりどりの下着が詰め込まれていたのだ。恐らくアオイのモノであろう。

 何となく良い香りがするような気がする。

(ををを…… 眼福眼福)

 下着入れを開けてしまったディミトリは何故か喜んでしまっている。

 一枚取り出して目の前に広げてみたりしていた。しばらくニヤニヤと眺めていたがハッと気がついたことが有るようだ。

(いやいやいやいや…… 目的が違うし……)

 そんな場合では無いと、被りたい衝動を抑え込んで引き出しを元に戻した。

 洋の東西を問わず年齢がいくつであろうと、男というのはしょうもない生き物なのだ。

(ふん、男関係するものは何も無しか……)

 ディ
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    モロモフ号。 船室の外に居た見張りは壁にもたれ掛かるように倒れている。その頭からは血が流れていた。 不意に少年が現れて問答無用で撃ってきた。声を上げる暇すらなかったようだ。彼は驚愕した表情のままだった。「若森くん……」 アオイは突然の登場にビックリしながらも、見慣れた顔の登場に安堵のため息を漏らした。「ちょっと、足を持ってくれるかな?」 ディミトリが手招きしてる。「?」 アオイが近づいて廊下を見ると見張りが倒れている。頭から血を流している所を見て、アオイは射殺されたのだと理解した。「顔が腫れているけど殴られたの?」 アオイの左頬が腫れているので聞いてみた。「うん、大声出して助けを呼んでたら殴られた」「女でもお構いなしかよ。 ヒデェ連中だな……」 ディミトリは見張りが持っていた拳銃を眺めながら呟いた。「連中は俺の事を探してるんだって?」「ええ、ロシア人が貴方の事をしつこく聞いてきた」 見張りの死体を運びながらそんな会話をする二人。アオイも死体を見たぐらいでは驚かなくなっている。 アオイも死が身近にある職業だとはいえ、慣れていく自分にどんよりとした気分になっていくのを感じている。「何、やったの?」 アオイが足を持ちディミトリが頭を持って死体を部屋の中に入れた。「ロシア人の母親とヤッたんだよ」「馬鹿……」 ディミトリはアオイに小突かれてしまった。彼女は下品なジョークが嫌いなようだ。 次にテーブルクロスで廊下の血痕を拭い去り、部屋を閉めて出ていこうとした。「ちょっとだけ待って……」 ディミトリは鍵を掛けてから、鍵を根本から折ってあげた。こうすると、室内に入ることが出来ない。本当は瞬間接着剤ぐらいで固定した方が良いのだがしょうがない。 アオイが部屋に居ない事は直ぐに露見してしまうだろう。少しでも時間を稼ぐ為の小細工だ。「まあ、お互いに聞きたいことは山程あるだろうけど……」 まず、何故引っ越したのか問い詰めたかったが、先に逃げ出すのが先だ。 敵の人数すら分からないのに彷徨くのは流石に拙い。金の行方は後で聞けば良いとディミトリは考えたのだ。「?」「とりあえず、逃げ出そうか?」 ディミトリが先に歩き、アオイは彼の後ろを付いて行った。「どうやって逃げるの?」「この船の傍にゴムボートを繋いである」「え?」「舷門(

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    モロモフ号。 ディミトリは船の後方にボートを付けた。係留ロープを結びつける場所がないので、ロープの先に磁石を付けて船に貼り付けた。 これでボートは行方不明にならないはずだ。 それから、吸盤を取り出し船を登り始めた。 まず、右手側を貼り付けて、それを手がかりに左手側を上に貼り付ける。右手側を緩めて左手を手がかりにして上に貼り付ける。 そうやって、交互に貼り付ける事によってよじ登っていくのだ。手の力だけなので結構しんどいものがある。 それでも、何とか登りきって船の舷側から甲板に降り立った。 ディミトリは懐から拳銃を取り出した。警戒したままで、ゆっくりと歩きながら入り口に向かう。 ここで、見つかれば道に迷ったなどと言い訳が効かないからだ。 出発前に見かけた船の見張りは反対側にいるのか見当たらなかった。つまり、常時警戒しているのは一人ということだろう。 最低でも二人は見張りに付くものだと思っていただけに拍子抜けした。 船の中に素早く入ったディミトリは奥に進んでいく。遠くの方で話し声が聞こえるだけで、後は何かの振動音がするだけだ。 今の所、船が侵入されたなどと誰も気付いていないようだ。手短に船内を見て回るつもりだった。  人の声がしていたのは食堂と思われる部屋だ。灯りが点いているので何人かいるらしかった。 ディミトリが入り口の傍によると、中からロシア語の会話が聞こえてきた。『日本のカイジョウホアンチョウの検査は終わったんだろ?』『ああ、連中は気が付かなかったぜ』『じゃあ、さっさと荷物を受け渡してしまおうぜ』『連中に悟られ無いで助かったな……』『ああ、まさかブツを船底に貼り付けて運んでるとは思わないもんさ』(ふん、ソコビキって取引のやり方か……) ロシアの留置場に入れられた時に、隣の房に居た薬の売人に運搬方法を聞いたことがある。その一つに『ソコビキ』と言うやり方にそっくりだった。方法は簡単で薬なり銃器なりを防水箱に入れ、船の底に溶接してしまうのだ。見た目はスタビライザーに見えてしまうので誤魔化しやすいそうだ。(くそっ、ひょっとして違う船だったのか?) 彼らが話していたのは違法薬物か何かの取引らしい会話だった。興味が無いので他の部屋を探しに行こうとした。『ところで例の女はどうしてるんだ?』 中に居る一人が話し始めた。ディミトリ

  • クラックコア   第056-0話 モロモフ号

    アカリの車。 サプレッサーを作り終えたディミトリはアカリに向かえに来てもらった。 これからアオイが閉じ込められている船を調べる為だ。車を走らせながらアカリに色々と聞き出しす。「どこの港に連れて行かれるか聞いた?」「いいえ」 車に強制的に乗せられて、直ぐにディミトリが追いかけたので詳しい話は出来なかったそうだ。 ただ、彼らがアオイと確保している事と、中学生の男の子を誘い出して欲しいとだけ言われたようだ。 彼らは只の使い走りのようで、若松忠恭の顔を知らなかったのは幸いだった。「じゃあ、車の中の様子で覚えていること無いかな?」「そう言えば、カーナビに臨海港って表示されていた」 メールか何かでアカリの居場所を教えられて、彼らはカーナビ頼りに走っていたのだろうと考えた。「ん? そう言えば奴らはアカリさんの顔を知ってたんだよね?」「ええ、スマートフォンに私の画像が有りました……」 見せられたのは、自分の画像とアオイの画像だったそうだ。「しかし、臨海港って言っても大きいよなあ……」 ディミトリたちは船であるとしか知らない。他には、相手がロシア系であるぐらいだ。「入港したばかりみたいな話をしてた」「ふむ、日付で検索してみれば良いか……」 ディミトリは携帯で船の入港情報を探り始めた。何か、手がかりが欲しかったのだ。「これかな…… 名前がそれっぽい……」 ディミトリが指差す先には『ナホトカ・モロモフ』とあった。とりあえずは見に行って見ることにした。 本来なら一週間ぐらいは観察をして、人数ぐらいは把握したかったが時間が無い。 アオイが人質にされているせいだ。「キプロス船籍で石炭運搬船とあるな……」 ディミトリは画面を見ながらブツブツ言っている。他にも船はあったが全体的に小さめの船ばかりだ。 きっと、外洋を渡るので大きい船だろう。「とりあえずはコイツに忍び込むか……」 ダメ元で乗り込むつもりだった。「ちょっと、寄り道してもらっても良いなかな?」「良いけど、何するの?」「ちょっと、お買い物……」 まず、釣具店に行きゴムボートを購入した。長さが二メートル程度で二人乗り。手漕ぎだが大した距離を漕ぐ訳では無いので平気だ。 目的の船にはロシア系の連中がいる。そして、彼らはディミトリが訪問するのも知っている。 大人しく入れてくれる訳が

  • クラックコア   第055-0話 お互いの立ち場

    自宅。 ショッピングセンターで乗り換えた車でアカリの車を取りに行った。いつまでも乗ってる訳にいかないからだ。 場所はアカリが誘拐されかかった場所だった。時間貸しの駐車場に停めていたようだ。「なんで、あそこに居たの?」 道中、ディミトリは気になっていた事を聞いてみた。「ん? 留学の下準備に行ったのよ」 ディミトリが見張っていた雑居ビルには、留学のコーディネーターが居るのだそうだ。 今日は打ち合わせに訪れていたらしい。「ふーん…… ところで、お姉さんはどこに引っ越したの?」「え……」 アカリは言葉を言い淀んだ。その様子から口止めされているのだろうと推測出来た。「ああ、言いたく無いのなら無理に言わなくて良いよ」 ここは無理する場面では無いと思い言い繕った。変に疑念を持たれて逃げ出されては金が手に入らなくなってしまう。 ディミトリは慎重に話を運ぶことにしていたのだ。「ゴメンナサイ……」「まあ、俺が君の立ち場だったら、こんな危ない奴と付き合うのはゴメンさ」 ディミトリは笑いながら答えた。アカリは俯いてしまっている。「駅前に漫画喫茶あるから、そこで待っていてくれる?」「はい」「ちょっと、家に用があるんだ。 それが済んだらお姉さんを助けに行こう……」「分かった」 アカリはディミトリを家に送った。降り際にディミトリは自分の携帯を渡した。アカリが使っている携帯は監視されている可能性が高いからだ。そして、そのまま漫画喫茶に向かっていった。 ディミトリにはどうしても自宅でやらなければならない作業がある。サプレッサー事だ。壊れたままでは拙い。 アオイを救出する際にはサプレッサーが必要になるのは目に見えている。その為にサプレッサーを作成しなおす必要だあるのだ。 自宅に帰ったディミトリは早速3Dプリンターでサプレッサーを作り始めた。 中身の構造を練り直す暇が無いので、複数個持っていく事にしたのだった。 今回持っていったサプレッサーを分解してみると案の定中で割れていた。やはり熱でやられるのは変わらないようだ。 それでも金属のケースには歪みは無かった。(サプレッサーが長持ちしなかったのは、蓋の構造が駄目だったんだろうな……) 銃弾を通すために穴に防音効果を高めるための硬質ゴムで蓋をしてある。ドアの様に銃弾が通過した後に塞がるようにしてある

  • クラックコア   第054-2話 怪訝な表情

    「……」 その様子を見ていたアカリは、ディミトリが何をしようとして居るのか理解出来た。映画なんか良く見かける車泥棒のやり方だ。 しかも、彼は手慣れている感じだった。 初めて逢った時には銃で撃たれていた。姉によると腕から何か不思議な装置を取り出す手伝いをさせられたとも言っていた。 そして、夜中に廃工場を見張ったり、不思議な行動をする少年なのだ。(本当にこの子は中学生なの?) 姉が少年を怖がっていた理由はこれなのだろうと確信したのだ。(この子は目的の為には、悪事であろうと躊躇する事は無い……) しかし、アカリはディミトリがする事を咎めるのは止めにしている。言っても聞かないだろうと分かっているつもりだからだ。 それよりも、気がかりなのは自分を連れ去ろうとしていた男たちが、姉を拘束していると言っていた事だ。 事実、連絡がつかない点も気になっている。本当に拘束されているのなら、不思議少年の手助けが必要なのだ。「僕は一旦自分の家に帰る必要が有る」 ディミトリは車を走らせはじめた。本当はアカリに運転して欲しかったが、彼の事を怪訝な顔で見ているからだ。 まあ、自動車の窃盗を目の前で見せられて平気な方がおかしい。 それで、しばらくは自分で運転する事にしたのだった。「どこか逃げ込める宛は有るの?」「ええ、友人の家に行こうかと……」「それは駄目だ……」「どうしてなの?」「彼らは君を何らかの方法で追跡している」「え?」「じゃなかったら、どうやって君に辿り着いたのさ?」「あ……」「その友人を巻き込むのは関心しないね……」「……」「携帯電話は持ってる?」「ええ」「じゃあ、電源切ってくれる?」「はい……」 ディミトリは携帯電話の位置確認を利用していると睨んでいた。 アカリはバッグから携帯を取り出した。「それ、お姉さんのだよね?」「はい、姉のアパートで間違えて持ってきてしまったんです……」「そうか……」 これで、アカリがアオイの携帯を持っていた謎が解けた。つまり、アオイはアカリの携帯を持っている事になる。 次はアオイの所在だ。逃げる時の会話でアオイは捕まったとアカリは言っていたのだ。「お姉さんは彼らに捕まったと言ってたよね?」「ええ。 大人しく着いてくれば、船で会えると言ってました」「船……」 ディミトリはロシア系の連

  • クラックコア   第054-1話 友達の車

    大型ショッピングセンター。 ディミトリとアカリは大型のショッピングセンターにやってきた。その店は敷地内の駐車場が満杯になった時用に、離れた空き地に駐車スペース設けている。 そこに強奪した車を止めた。青年が警察に通報しているかも知れないからだ。(利用料金を十万程ダッシュボードに置いておくと言えば良いか……) ショッピングセンターから可愛そうな青年に電話する事にして、今後の事を考えねばならなかった。(一旦、家に帰ってサプレッサーを作り直さないと……) 手元にあるサプレッサーは用をなさない。今回の銃撃戦で交換用の弾倉がもっと必要な事が分かった。 これはミリタリーオタクの田島に頼んで譲って貰おう。 拳銃に付属していた弾倉はグラつきが有ったが、手持ちのモデルガンの弾倉はグラつきが無かった。玩具と思っていたが、中々使いでが良かったのだ。もちろん、改造は必要だがどうという事は無い。(多人数相手だと弾がいくら有っても足りない……) 普段、使っているのはアサルトライフルだ。携帯する弾も百~二百がせいぜい。多数の弾倉の携帯は行動を制限されてしまう。 それに兵隊の時には、突撃する者・支援火力を張る者と役割が分かれていたので、弾がそれほど必要が無かったのだ。(そう言えば拳銃が必要な場面って無かったからな……) 拳銃は戦局が駄目詰まりな状況で、ライフルの弾が無くなるような最後の最後で使うような物だ。なので、さほど重要視していなかったせいもある。それに拳銃が必要な場面に遭遇していたらディミトリは生き残ってこれなかったであろう。(まあ、サプレッサーをどうにかするのが先だな……) そんな事を考えながら、ショッピングセンターに向かって駐車場を歩いていると一台の車が目に止まった。 駐車場の端っこにポツンという感じで停車している。(ん?) ディミトリの直感が何かを告げた。懐にある銃を握りながら車に近づく。 見た目には普通の車だし、取り立てて目立った外観はしていなかった。(んんん……) 車には誰も乗っていないし、荷物が有る訳でも無い。しかし、何か変なのだ。 車の周りを回って正面に来た時に、何にピンと来たのかが分かった。(ふ、ナンバープレートが前と後ろで違うじゃねぇか……) これはニコイチと呼ばれる盗難車だ。ナンバープレートを変更しているのは、発覚を遅れさせ

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